17.Infrasonic
Infant Star
1.特徴(図III-17-1)
 新生児での「自発呼吸と同期した補助呼吸」ができる人工呼吸器は、当初は一部の機種に限られていたが、現在ではServo-300を始め、Babylog 8000、Star Syncを付けたInfant Star、Bear Cub 750vs、SLE-2000、Bennett 840、Evita 4(+NeoFlow)と普及の兆しがうかがえる。ほとんどの機器では患者回路内の変化よりトリガー信号を得るフロートリガー方式が用いられていることが多いが(一部では圧トリガー方式である)、Infant Starだけは胸郭の動きを検出してトリガー信号を得ている。最近では新生児用の人工呼吸器はHFOを併用できるようになってきたのが、この点に関してもInfant Starはその先駆者であり、これはユニークな吸気ガス発生機構によるものである。現在、Infrasonic社はMarincrodt社に買収されて、Infrasonic社はすでに存在しないが、Infant Starの製造は継続される。現在モデル500(HFOなし)と950(HFO内蔵型)のみが発売されている。
2.性能
1)利用できるモード
 IMV (定常流、圧プラトー)
 IMV (ディマンド、圧プラトー)
 CPAP (定常流方式)  
 CPAP (ディマンド方式)

 (+Star Sync)
 ASSIST/CONTROL(圧プラトー)
 SIMV(圧プラトー)
 CPAP/BACKUP(圧プラトー)

 +HFO
 +PEEP
2)基本データー
システム作動間隔時間...10ms
最大吸気ガス流量
  強制換気............40LPM
  HFO.................112LPM
吸気ガススルーレート...? L/s
最大強制換気数.........150 BPM
最大SIMV回数...........150 BPM
 
3.制御回路、制御機構
1)制御機構の概説
 マイクロプロセッサーにはintel 8085が2個使用されている。作動はソフトウェアー上の処理で行われる。制御機構にもデジタル方式が多用されていて、アナログの部分は少ない。
2)機械的機構の特徴
 吸気マニフォールドに流量の異なるバルブが12個設けられていて、バルブの開閉の組み合わせで、吸気ガス流量をデジタル的に合成する。バルブの開閉はディマンド流に応じて頻回に調整される。このバルブの寿命は5億回以上保証されているが、HFOを付加すればバルブ群は、さらに酷使される。理論的にはバルブの寿命は一番過酷な条件でも約7000時間以上ある。
3)ガス流量計測
 流量計測機能はない。
4)吸気バルブ
 吸気ガス流量は2 LPM, 4 LPM, 8 LPM, 16 LPMのバルブの組み合わせでデジタル的に合成される。2LPM刻みで最大126LPMまで供給可能である。 ディマンド、定常流、いづれのモードでも吸気ガス流量の不足分はディマンド流として-1cmHOで4 LPM、-5cmHOでは40 LPM加算される。
5)呼気バルブ
 呼気弁はバルーン弁である。この駆動系はニードル弁とニューマティック回路で構成されている。呼気ガスはジェットベンチュリ効果で吸引される。ジェット流量は自動調整されていて、auto-PEEPの発生を予防する。
4.ニューマティック回路(図III-17-2)
 O/Air配管より入力されたガス45〜75psiは、フィルターF1,F2、逆止弁CV1,CV2を経由した後、AirはレギュレーターR1で38psiに減圧安定化される。OはAir圧を基準にしたレギュレーターR2でR1の出力と同じ圧に減圧される。これらのガスはメカニカル方式のブレンダーで目的の酸素濃度に調整される。ブレンダーの精度を確保するために2LPMのパージ流が捨てられる。ブレンダーの出力は30cu.in.の貯蔵タンクに蓄えられるが、この充填量を調節するのが、差圧トランスデューサーXDCR1と、電磁弁SV13A、ニューマティック弁SV13Bで構成するブレンダーフローコントロール系である。この系はON/OFFの動作なので、ブレンダーの作動流量条件は一定化し、酸素濃度の精度は高くなる。しかし30ci.inの貯蔵タンクの圧は変動する。レギュレーターR4で18psiに減圧・安定化して圧の変動を吸収する。これらの回路はProportional Manifoldの作動に伴うパルス圧がブレンダーに影響しないようにアイソレーションする。4cu.in.の貯蔵タンクAccumulatorと抵抗Restrictor .033Dia、逆止弁CV3は、ブレンドガス出力でのリップルを除去するパルスダンパーである。吸気ガスは2LPM,4LPM,8LPMと8個の16LPMの電磁弁でデジタル的に合成して発生する。吸気ガス出口には安全のためさらにメカニカル方式のリリーフ弁が設けられている。システムガスはAirより供給される。レギュレーターR7で18psiに減圧されたガスは電磁弁SV7Aとニューマティック弁SV7Bで構成された大気解放弁(安全弁)を閉じる。これはシステム異常時の安全策である。吸気ガス出口と近位圧Proximal Airway Pressureは圧トランスデューサーPT1,PT2でモニターされる。呼気弁駆動圧は切替弁(PEEP/IMV Selector Valve)SV10で切替えられる。吸気相ではIMVレギュレーターで100cmHOに減圧したガスを、呼気相では、PEEPレギュレーターの出力ガスを呼気弁Exhalation Valveに加え呼気弁を閉じる。PEEP/CPAP基準圧は、電磁弁(PEEP/CPAP Pressure Control Valve)SV8、ニードル弁PEEP/CPAP Valve、4 cu.in.Accumulator、0.024Dia Restrictor、0.015Dia Restrictorで発生する。これらはPEEP/CPAP圧の遅延回路を構成していて、呼気相初期での呼気ガスの抜けを改善する。PEEPレギュレーターは電気回路用語で言う「電流増幅素子」として機能する。電磁弁がニューマティック弁を駆動する構成は他にも随所に採用されているが、これは電磁弁の負担を軽減して、耐久性を延ばし消費電力を軽減する為である。呼気ガスはベンチュリー効果で吸引される。ベンチュリーガス流量が増加すると呼気ガスの吸引力が増す。ベンチュリーガス流量はVenturi Cutoff Valve"SV0"の断続サイクルの増減で調整される。吸気ガス流量、換気数、PEEP/CPAP設定値によりあらかじめ不当PEEP/CPAP圧が予想される。これを補正するのに要するベンチュリーガス流量はEPROMにセットされているが、さらにPEEP/CPAPの実測値と基準値に基づいてマイクロプロセッサーが自動調整する。なお、駆動ガス圧が、SV0のスイッチングで影響されないようにAccumulator 1 cu.in., .038Dia Restrictor,Accumulator 1 cu.in.よりなる平滑回路が設けられている。
5.制御ソフト
1)トリガー方式(III-17-3)
 Star Syncを併用すると自発呼吸に同期させて強制換気を送れる。Star Syncは横隔膜の動きを検出する加速度センサーを患者に張り付けて検出する。理論的には胸郭運動を直接捉えるので迅速なレスポンスが期待できる。しかし、体動の誤認や体位変換でセンサーの位置を再調整する必要がある等、不確実で不利である。
2)IMV(定常流)
 吸気相の開始時には、FLOW RATEで設定した流量で吸気ガスが供給される。呼気弁は100cmHOで閉じられる。吸気圧がPIP(最大吸気圧)の75%に達するとPIP圧を維持するように、吸気ガス流量が徐々に減少する。呼気相になると呼気弁は開き、FLOW RATEの流量で定常流が流れる。PEEP/CPAPが維持できないときは、プロポーショナルマニフォールドよりディマンドフローが追加される。
3)IMV(ディマンド)
 吸気相ではIMV(定常流)と同じ作動をするが、呼気相では4LPMのバイアス流が流れていて、吸気ガスの不足分はディマンドフローで追加される。
4)CPAP(定常流)  
 定常流方式(流量設定で流量を調節する)のCPAPになる。不足分はディマンドフローで追加される。
5)CPAP(ディマンド)
 4LPMのバイアス流が流れているが、不足分はディマンドフローで追加される。
6)ASSIST/CONTROL      
 強制換気時間以外はすべてトリガーウィンドーとして扱われる。もし自発呼吸数が多ければ過換気になる可能性がある。
7)SIMV
 トリガーウィンドーは可変時間方式である。
8)CPAP/BACK-UP
 Star Syncによりバックアップ機能が追加される。CPAP/BACK-UPを用いると、CPAP作動中にStar Syncで設定した無呼吸時間以上の無呼吸が検出されるとバックアップ換気が入る。バックアップ回数はStar Sync側で設定する。バックアップ回数は60sで自動的に0 BPMになるように直線的に減少し、60s経過すると元のCPAPに戻る。
9)HFO(図III-17-4)
 HFO+IMVでは呼気相だけに高頻度換気が起こる。陽圧相では、HFO回数(2〜22Hz)にかかわらず吸気バルブ群が18ミリ秒開き、これがHFO回数に応じて高頻度に繰り返される。振幅により2LPM,4LPM,8LPM,16LPMのバルブ群が組み合わせられる。陰圧相は呼吸回路に断続流が流れる際の回路の時定数に基づくアンダーシュートと呼気弁ブロックでのジェットベンチュリーによる吸引効果で発生する。
10)PEEP/CPAPの維持
 呼気バルーン弁の駆動回路は静的動作をし、ここには積極的なサーボ制御はないが、吸気バルブのディマンド機構とベンチュリガスの流量調整(比較的遅い制御系、低下させるように作用)の総合的な作用でPEEP/CPAPを積極的に維持する。
11)内臓バッテリー
 搬送や停電時に30分程度駆動可能である。外部バッテリーも接続できる。
12)出力
 RS 232Cインターフェースにより、デジタル出力が可能である。また気道内圧をアナログ出力できる。
6.操作体系
1)Infant Star単独で使う場合(図III-17-1)
 モード、ガス流量(吸気流量or定常流量)、吸気時間、呼吸数、吸気圧、吸気圧のアラームレベル、PEEP/CPAP圧、をデジタル表示を見ながら設定する。
2)HFOを併用する際
 スイッチ(パネル全面とガスモジュール背面)を入れた後、周波数と振幅を設定する。
3)Star Syncを使う場合(図III-17-5)
 Infant StarはCPAPモードにする。定常流CONT FLOWもしくはディマンドDEMAND FLOWのいづれでも可。モードはStar Sync側で設定する。強制換気回数(Assist rate,SIMV rate)とバックアップ回数もStar Sync側で行う。
4)ポップオフバルブ
 ポップオフバルブは過剰圧に対する最後の安全策なので、必ず設定する。しかし、HFO使用時には右にいっぱい回して、このバルブが作動しないようにする。
7.モニター、アラーム機能
1)患者状態
a)低吸気圧;マニュアル設定(0〜60cmHO)
b)低PPEP/CPAP圧;PEEP/CPAP圧に応じて2〜5cmHOが自動設定される。
c)回路リーク;ディマンドフローが8LPM、4秒以上必要なとき
d)回路閉塞;程度に応じてHI-PP A01〜HI-PP A05がメッセージウィンドーに表示される。その際吸気ガスは停止する。また、アラームの程度に応じて安全弁SV7や呼気弁が解放される。
e)呼気時間不足;呼気時間が0.3秒(呼吸回数100回まで)もしくは0.2秒(101回以上)確保できないとき、強制的に呼気時間を確保する。つまり呼吸回数が減少する。
2)その他
 O,Air 供給、電源、バッテリー、機器の異常時(E-1〜E-6のメッセージ)、に警報する。
8.ディスプレー機能
1)Infant Star本体
 設定値はデジタル表示で、アラームの意味についてはメッセージウィンドーにコードで表示される。
2)Star Syncのモニター
 Star Syncでは過去60sの自発呼吸数、ASSIST呼吸数、CONTROL呼吸数をデジタル表示する。
9.患者回路構成、加湿器(図III-17-6)
 加温加湿器はF&Pが標準仕様である。HFO使用時にはMR320のモジュールを使用する。
10.日常のメンテナンス
1)患者回路、呼気弁ブロック、呼気弁を洗浄、滅菌する。
2)クイックテスト、ウォータートラップの点検。
11.定期点検
1)6ヶ月ごと
 漏れ電流のチェック(25マイクロアンペア以下)、接地抵抗が0.2オーム以下、圧トランスデューサーの精度の確認、流量の精度確認。
2)5,000時間ごと
 プロポーショナルソレノイドの清掃、点検。
3)10,000時間ごと
 オーバーホールをする。その際、プロポーショナルソレノイドや電磁弁は交換する。
12.欠点
1)Star Syncのセンサーの位置によりトリガーの検出感度や精度に差がでる。
2)一体型でないので、操作が解りずらい。
 
 
 
図III-17-1         Infant Starの外観
図III-17-2         Infant Starのニューマティック回路
図III-17-3         トリガー用のセンサーを付ける位置
図III-17-4         Infant StarのHFO
図III-17-5         Star Syncの操作パネル
図III-17-6         患者回路